新谷かおる『バランサー』傭兵ものから忍者ものへ謎の転身

新谷かおる作品は基本的に好きなのだが、これはちょっとアレな作品。週間少年サンデー掲載だったが、謎の路線変更で訳のわからん作品になっている。

タイトルからして色々な勢力間のパワーバランスをとる調整者というような意味合いだったのだと思うのだが……。何でも、この作品の概念が元になって『砂と薔薇』ができたらしく、それはそれで納得。

主人公の南郷兵衛は傭兵で潜入工作のような特殊任務に従事。序盤から掲載誌に見合わぬ非常にハードというか重苦しく読後感の悪い話を連発。エリア88の序盤とかアフリカで傭兵している時の話をもっと暗くした感じをイメージするといい。そんな任務達成のようなカタルシスもない話が7話まで続く。

……何がなんだかわからない

だが8話で急展開が起こる。謎の気配を感じとる南郷、そして襲いくるNINJA!さらに自分も忍術で迎え撃つ南郷!実は南郷は忍者の末裔で敵対する忍者の一族に襲撃されたのだ!ちなみに7話までで忍術を使ったりする描写や伏線の類は一切ない
そして爆発に巻き込まれた南郷は消息不明に……。

以後は南郷の行方を探しに忍者の里からアムステルダムにやってきた少年、鏡大吾が新主人公になる。足りない女っ気を補うため?に忍術で若返る150歳の老婆もついでに追加。当然、物語のテイストもコメディタッチで娯楽色の強いものに変更されているけれど、主人公交代以降に描かれているエピソードは本来だったら南郷が演じていたはず。結局は路線変更の甲斐なくそのまま打ち切りエンドを迎える訳ですが。

序盤の南郷編、中盤以降の大吾編、どちらも単体で見れば実はそこまで悪いできじゃない。いかにも新谷かおる的な蘊蓄やら何やらちりばめられていたりするので、ファンならそれなりに読めるのだが、面白いかと聞かれたら「うーん…」という感じで何か一味足りない。それに両者があまりにも異質なので同じ世界の物語として認識できないのよ…

「四菱ハイユニ」「秘技・答案二枚返し」とかやってた受験戦士が「今までの特訓は全てボクシングのためだったのじゃ~!」と突然ボクシング漫画になってしまった『とどろけ!一番』。学園バトルものから異世界ファンタジーへと転身した『タカヤ-閃武学園激闘伝-』あたりと較べたら大した事ないし、マンガの無茶な路線変更なんて珍しくもないといわれたら、まあそうなんですがね。

どうしてこうなった…

新谷かおるのヒット作に『ふたり鷹』というのがある。何で読んだのか失念したのだが、実は『ふたり鷹』の序盤はその良くいえば哀愁漂う、悪くいえば辛気臭い作風がサンデー読者に全く受け入れられず打ち切りの危機に瀕していたそうだ。そこでもっと派手な展開にしてコメディ色を強くしたところ人気が出て何とか首がつながったらしい。

作中でメカニックの花園明美が「このまんがは最初大型バイク・ロマンではじまったはずですだ。(略)…真剣味が足りねぇだよ…こんなこっちゃ3流ギャグまんがになっちまうだ…」と嘆くシーンがある。これは作者の心のおたけびだったのだなぁ。

さて、『バランサー』はその『ふたり鷹』終了後に同じサンデーでの連載。なのに何でまた暗~いどう見たって受けそうもない話を描き始めるのだ?『ふたり鷹』で固定ファンがついたとか、『エリア88』が大人気だからこの系統でもイケると判断したのだろうか?そしてよりにもよって忍者ものにするなどというヤケクソな判断を誰がしたのか?
このへん非常に興味深い。

あまりにも訳がわからないのでwikiやら何やらで調べたところ「もともとは別のタイトルでスタートしてクレームがきたので改題→打ち切り」らしい。つまり7話までは別のマンガでそれ以降が『バランサー』なのか。更には、これが元で編集との関係悪化→サンデー撤退とかも書かれてる。何となくどういうやり取りがあって「じゃあ忍者にしまひょ、それで文句おまへんやろ」となったのか想像できるようなできないような……。

そうそう、この作品のラストで主人公が思わずベルリンの壁をぶっ壊すのだが、4年足らずのうちに現実世界でもベルリンの壁が崩壊したのである……。

 
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